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漢方閑話⑥「からだのほてり」
「漢方閑話」は『富士ニュース』に投稿しているコラムです。
こちらでは過去に投稿したものを転載します。
今回は2016年12月に投稿された漢方閑話をご紹介します。
からだのほてり
◇70代の女性は身体のほてりに悩んできました。ほてりがひどくそのほてりは足元から胸に上り額にまで上ってくると言います。神経のせいかと思い精神科の病院にかかり自律神経調整薬を処方されています。ほてりが上がってくると胸のあたりが熱くなり動悸がして顔にきて額に汗がにじんできます。ひどいときには身体が小刻みに震えます。ふるえは唇にも及びます。他の病気は特にありませんが、降圧剤が処方されていて血圧は安定しています。食欲がなくお腹が減らない。がまんして食べているのだと言います。病院では「薬に頼りすぎ」「ノイローゼ」「自律神経失調症」だと指摘されています。ほてりとともに寝汗をかきその着替えのために3回ほど目覚めると言います。睡眠は夜中にほてりが来るまでは眠れますが睡眠導入剤も処方されています。体重は43kg、身長148cm、具合が悪くなって体重が減少しました。朝、頭重があり口が渇くがあまり飲みたくはない。胃部がもやもやし、むかむかすることもあります。
◇どうしてこのような症状になったのでしょう。原因はご主人のけがにありました。長年連れ添った伴侶がけがをしてしまって家のことは何でもしてくれたご主人に今後何か起きたらどうしよう?そんな心配が彼女の精神を消耗させてしまったのだと思われました。漢方ではヒトは陰陽の気から成り立っていると考えています。頭頂部から起こった経絡の督脈は背骨を通り尾骨に至り全身の陽気を支配しています。下腹部から起こった任脈は陰器をまとい上向し口腔を潤し天頂に至り督脈に交わり陰陽の気は交わっています。陰気が充分に補充されそれに交わる陽気が陰気を気化すればヒトの命は平穏です。もし陰気が不足すると相対的に陽気が亢進しそれは下腹部から身体の正中を通り口唇に至ります。任脈と呼ばれヒトの命の陰分の中枢です。精神的な過労から陰精を消耗し陽気は亢進して任脈を上向し盗汗や口の乾き動悸、手のふるえを起こしたものと考えられました。任脈、督脈の不足が起こりますと腎に蓄えられる精血が不足し、骨はもろくなり、全身がやせ、足腰が衰え、精力は減退し、眼はカスレ、髪は抜け、歯はぐらつき、小便は失禁し、若い人では不妊,流産癖になります。処方は腎の陰陽の不足を補い任脈、督脈の不足を補うこととしました。幸いなことに数日にして諸症状は改善に至りました。