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漢方閑話⑰ 「胸が熱い」
「漢方閑話」は『富士ニュース』に投稿しているコラムです。
こちらでは過去に投稿したものを転載します。
今回は2017年10月に投稿された漢方閑話をご紹介します。
◇50代の女性が漢方薬をもって来店されました。のどが痛いと言います。診療所でこの薬を処方され中身の生薬が気になると言います。主治医に相談されたのですかと問いますと話していないとのこと。主治医はあなたのご容体を見て決められたのですから私からコメントするのは避けたい。ただこの薬の適応症は体力がなく冷え性で横になりたいようなヒトに使う。病の初めに熱がなくあっても軽く、悪寒が強い人、舌は淡白で苔は白い。そのようなヒトののどの痛みにも使われます。
◇あなた自身が主治医ですからご自分で舌と脈を診てください。舌は先端からふち周りは真っ赤か、苔はなく、脈は太い元気な脈がうっています。邪熱が鬱滞していることを伺わせます。処方薬は逆にからだを温めて元気をつける助陽薬です。体力もあり元気も衰えていないあなたのご容体とは寒熱が反対のようです。このヒトは同時にのどに痰が絡んだような詰まった感じがする、口が渇きっぽい、下腹部が張る、介護を続けてきた義母が2年前に逝去したのですがその義母からいじわるされたのがいまだに気になり不安感が取れず緊張感が続いている。眠れないために睡眠薬を服用している。胸や背中が熱いと言います。胸をさすりここが熱いと言い背中にも手をまわします。季節は9月の下旬まだ暑さが残っています。暑熱が膈(かく)に鬱滞していることが考えられます。膈は肺や心臓を守り、横隔膜より下にある胃、大腸、膀胱、腎、肝臓と境をなしています。漢方で表、裏と陰陽を分ける時、あるいは上下を分類するとき膈は半表半里の境界を果たし寒気が表から裏に侵入するのを防ぎ温熱の邪気が口鼻から侵入してきても膈は其の侵入を防御しています。亡き義母を献身的に介護したのにそれに対する仕打ちない言葉に恐れ逝去後2年経った今もまだそれから逃れられない。そのストレスに悶々としているところに初秋の暑熱の邪気を感受しその邪気は、膈に宿り胸が熱いと訴えているのです。軽い熱感があり胸中がなんともいえず暑苦しい、いらいらしてじっとしていられない、焦燥感、不眠のために何度も寝返りを打つ、義母の言葉に心が思い乱れるなど胸膈に邪熱が滞っていると思われます。この滞った鬱熱を清(さ)まし鬱を発散しますと胸の熱いのとともに胸膈の塞がり感、何とも言えぬ胸苦しさから解放されました。